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220807読んだ本【バカチン4冊3連発】

教養があれば不審に思うはずで、なくても出典の確認は研究のイロハヾ(`◇´)ノ彡☆コノ! バカチンガァ!!
と頭から湯気を立てたせいか気温が再び30度を超えてしまい、涼しい日々よ、さらば(´;ω;`)ウッ…

【読んだ本(バカチン4冊3連発)】

奥村恆哉(校注)『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社,1978)所蔵本
久曾神昇(全訳注)『古今和歌集(二)』(講談社学術文庫,1982)所蔵本
片桐洋一『原文&現代語訳シリーズ 古今和歌集』(笠間書院,2005)所蔵本
片桐洋一『古今和歌集全評釈(上)』(講談社学術文庫,2019)所蔵本

詞書は省くけど、紀貫之の「見る人もなくて散りぬる奥山のもみぢは夜の錦なりけり」(小町谷照彦
[訳注]『古今和歌集』[ちくま学芸文庫,2010]は「誉めそやす人もないまま散ってしまう奥山の
紅葉は、錦の衣裳をまとって夜行くようなもので、何の甲斐もないことだ。」と訳してる)という歌
の「夜の錦」についての有名一流国文学者たちの解説に吃驚仰天∑( ̄ロ ̄|||)ニャンじゃそりゃ!?

奥村恆哉は新潮日本古典集成本の頭注欄において同歌について次のような解説をしていた(ノ_-;)ハア…

    前漢の朱買臣が、富貴になっても故郷に帰らないのでは夜の錦のようだ、と言われた
    故事(『史記』)を採り込み、奥山の紅葉を惜しんだ。

久曾神昇は『古今和歌集(二)』の同歌の〔鑑賞〕で次の解説(返り点は省略した)( ̄◇ ̄;)マジ!?

    『史記』項羽本紀に、前漢の朱買臣が、「富貴不帰故郷、著錦如夜行」といった故事
    によったものである。中国の故事を見事に和歌にとりいれて、錦のごとき紅葉の散る
    のを惜しんでいる。

片桐洋一は原文&現代語訳シリーズで同歌の「夜の錦」に付した脚注で次の解説エッ(゚Д゚≡゚Д゚)マジ?

    「史記」項羽本紀などに見える有名な故事。漢の朱買臣(しゅばいしん)が富貴に
    なっても故郷に帰らないのは、錦を着て夜あるくようなものだと言ったという話に
    よった語。

片桐洋一は講談社学術文庫本の同歌の【鑑賞と評論】【注釈史・享受史】で次の如しヒィィィィィ(゚ロ゚;ノ)ノ

    「夜の錦}の比喩は『史記』項羽本紀に見える有名な故事による。今、『史記』
    項羽本紀を直接引用するよりも、わかりやすいので、『古今栄雅抄』の要約を
    参考に引いてみよう。

      みる人なくて散りぬる奥山のもみぢは「夜の錦」にてあると也。錦は色の
      めでたきものなれど、夜闇に着たるは曲なきことなれば、「夜の錦」は
      曲なき事に云へり。本説、朱買臣が、身貧にして薪を樵[こ]りけれど、
      文を腰にはさみて、学問なりて、遂に帝に参りて、会稽山の太守になりて
      古郷に帰る時、史記云「富貴ニシテ故郷ニ帰ラザルハ、錦ヲ著テ夜行クガ如シ」
      (漢文を私に訓読)と云へる古事なり。

    わかりやすい叙述なので、これ以上の説明は必要ないと思うが、最高に贅沢な着物
    である錦を着る時は当然他人に見てもらいたいという気持があるのが普通だから、
    「錦を着て夜行く」というのは、まさに「宝の持ち腐れ」である。・・・


    ・・・/実際、「夜の錦」を詠んだ歌としては、/・・・/など、きわめて多い。
    『史記』項羽本紀の「富貴ニシテ故郷ニ帰ラザルハ、錦ヲ著テ夜行クガ如シ」に
    よっていることは確かだが、それにもまして『古今集』のこの貫之歌の影響が
    大きいように思われるのである。/

教養があれば、漢の高祖(初代皇帝)と霸を争った楚の項羽の生涯を記述した『史記』の項羽本紀に
漢の七代皇帝の武帝に仕えた朱買臣が出てくるなんて不審に思うはずだし(朱買臣は『枕草子』でも
言及されており、彼らが朱買臣を知らないのは単なる過失ではなく業務上過失)、教養がなくても、
研究者なら引用は正確かどうかなど出典をちゃんと確認するはずで、研究者失格かとC= (-。- ) フゥー

朱買臣の故事は『史記』項羽本紀には無く、出てるのは『漢書』だヾ(`◇´)ノ彡☆コノ! バカチンガァ!!

「夜の錦」の元の台詞は朱買臣が言ったのではなく言われたものだヾ(`◇´)ノ彡☆コノ! バカチンガァ!!

『史記』項羽本紀は「錦」ではなく「繍」であり、正確に引用しろヾ(`◇´)ノ彡☆コノ! バカチンガァ!!

この紀貫之の歌は『和漢朗詠集』にも採られており、菅野禮行(校注・訳)『新編日本古典文学全集
19 和漢朗詠集』(小学館,1999)は「夜の錦」に付した頭注で次のように解説してる( ̄ヘ ̄)y-゚゚゚

    ・・・311注三の朱買臣の故事、また、項羽が「富貴にして故郷に帰らざるは、
    繍を着て夜行くがごとし」といった故事(史記・項羽本紀)も踏まえる。/

「錦」とせずに「繍」と正確に表記しているし(ただ、「着て」は「衣て」が正しいのでは?)、
「311[=高丘相如の漢詩文の摘句]注三の朱買臣の故事」も同書の頭注から引くC= (-。- ) フゥー

    /朱買臣(?~前一〇九)は貧しくて薪を負いながら読書に励み故郷の会稽太守に
    なった時、「富貴にして故郷に帰らざるは繍を衣[き]て夜行くがごとし」と帝に
    いわれた故事(漢書・朱買臣伝)から、錦繍を朱買臣の衣という。/

常石茂&駒田信二&後藤基巳(編)『中国故事物語』(河出書房新社,1972)とその文庫版(全3冊)
である駒田信二&寺尾善雄(編)『中国故事物語 教養の巻』(河出文庫,1983)の「錦を衣て夜行く
が如し」の項(岡本隆三が担当執筆)の説明の末尾には次の指摘がある( ̄ヘ ̄)y-゚゚゚

    ・・・/「錦を衣[き]て夜行く」は、『漢書』の「項籍[=項羽]伝」の記載で、
    『史記』の「項羽本紀」では「錦」を「繍[しゅう]」(刺繍した美衣)に作って
    いる。・・・

従って、この紀貫之の歌も「錦」ゆえ、『史記』項羽本紀や『漢書』朱買臣伝に拠ったのではなく、
『漢書』項籍伝をその典拠とした、と読み解くのが適切ではないかとオホホホ!!♪( ̄▽+ ̄*)

と書いて、使えねー注釈書(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2019-01-19 )ゆえ
見なくなった小島憲之&新井栄蔵(校注)『新日本古典文学大系5 古今和歌集』(岩波書店,1989)
の存在を思い出した( ̄◇ ̄;) 小島憲之は漢詩文に詳しいから、もしかしてと思って同書を披くと、
この歌の脚注で次のように解説・指摘(返り点は省略)キタ━━━━゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚━━━━!!!!

    〇夜の錦なりけり 漢書・項羽伝「富貴不帰故郷。如衣錦夜行」による表現。・・・
    ▽旧注以来、漢書・朱買臣伝または史記・項羽本紀の「如衣繍夜行」によるとするが、
    「繍」はもともと「錦」とは少しずれるので、芸文類聚・錦にも引く漢書・項羽伝に
    よるとする説に従う。・・・

同書が「・・・実際にはありもしない出典を掲げる『毘沙門堂旧蔵古今集注』・・・」という中世の
『古今和歌集』の古注釈書を引いていることを指摘した上で、「・・・現代の注釈書が、このような
あやしい出典に依拠することは、許されるものではないのである。」と片桐洋一は前掲『古今和歌集
全評釈(上)』で大見得を切ったので、谷沢永一『紙つぶて 自作自注最終版』(文藝春秋,2005)も
紹介してたけど(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2019-03-17 )、天唾に(^_^;)

図書館で、『史記』項羽本記は吉田賢抗『新釈漢文大系39 史記 二 (本紀二)』(明治書院,1973)
と司馬遷(小竹文夫&小竹武夫訳)『史記1本紀』(ちくま学芸文庫,1995)で、『漢書』朱買臣伝
は班固(小竹武夫訳)『漢書5 列伝Ⅱ』(ちくま学芸文庫,1998)で、『漢書』項籍伝は班固(小竹
武夫訳)『漢書4 列伝Ⅰ』(ちくま学芸文庫,1998)で、それぞれ確認も、『漢書5 列伝Ⅱ』585頁
は〈・・・主上が買臣に、「富貴になって故郷に帰らないのは、錦の衣を着て暗い夜路を行くような
ものだ。いま子[きみ]はどういう気がするか」と言った。・・・〉と訳してて、「錦」と(@_@;)
萩谷朴『枕草子解環 三』(同朋舎出版,1982)は『漢書』朱買臣伝のほぼ全文(!)を引用してて、
当該件は「・・・上謂買臣曰、富貴不歸故郷、如衣繍夜行。今子何如。・・・」(返り点は略した)
とあるので、現代語訳とはいえ、やはり「錦」ではなく「繍」とすべきではないかと( ̄ヘ ̄)y-゚゚゚
コメント(6) 
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コメント 6

tai-yama

小林幸子が豪華な衣装を着ているのに紅白に出場しないようなことを
表す故事なんですね(笑)。富貴を得て故郷に帰ったら、知らない親戚
からたかられると言う事実も・・・・
by tai-yama (2022-08-07 23:31) 

ナベちはる

「どこから出ているか」を確認することは何事でも大事ですよね。
文献しかりニュースしかり…それがあるかないかでかなり差が出てくると思います。
by ナベちはる (2022-08-08 01:18) 

middrinn

紅白に出場するのに豪奢な衣装を着ないというべきでは(^_^;)
tai-yama様、てゆーか、紅白は小林幸子の故郷ですか(^_^;)
by middrinn (2022-08-08 06:05) 

middrinn

まさにリテラシーの問題ですし、おっしゃるように、
ナベちはる様、何事も確認すべきですよね(^_^;)
by middrinn (2022-08-08 06:18) 

df233285

解説が無くても、ほぼ言いたいことズバリの和歌なので。
その冒頭4冊は、解説しなかった方が、誤った情報が出ないだけ
マシとみました。
by df233285 (2022-08-08 07:47) 

middrinn

たしかに(^_^;) この貫之の歌はちょっと散文的ですね(^_^;)
それに文章は長くなるほどミスする可能性も増えますね(^_^;)
by middrinn (2022-08-08 08:19) 

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