SSブログ

220811読んだ本

ハンディファンを胸の谷間に挿して街を闊歩しているオバチャンとすれ違ったのを思い出した(@_@;)

【読んだ本】

谷知子『天皇たちの和歌』(角川選書,2008)

月の顔を見る(『竹取物語』『源氏物語』)、月の光の下で会話をする(『蜻蛉日記』)、月の光を
浴びる(『更級日記』)のは忌むことという俗信があったと主張する国文学者が一部に存在するが、
それでは説明が付かない和歌、漢詩文、物語の描写が圧倒的多数という事実の前では愚説妄説(^_^;)
その誤りや反証の指摘に飽きてきたところ、本書の「第三章 天皇と自然」の「第三節 天地の歌」
(本書160~162頁)を読み始めたら、次の件が( ̄◇ ̄;)

    ・・・/さて、次は月に話を転じよう。月は、昼の太陽に対して、夜の国を司る。
    月もまたさまざまな信仰の対象であったが、中でも不老不死の異界、ユートピア
    として仰がれた。欠けたかと思えば満ち、満ちたかと思えば欠けていく月は、
    永遠に再生しつづける存在と見られていたのである。・・・

忌むこととする一部のバカチン国文学者とは全く正反対のベクトルだが、その例証としてどんな歌を
挙げているのだろうかと期待しながら読み進めた小生ウキウキ♪o(^-^ o )(o ^-^)oワクワク♪

    ・・・月への信仰をよく表す物語が、『竹取物語』である。かぐや姫は、ひととき
    地上世界に降り立ったが、後に月世界へと帰っていく。地上世界は永遠ではありえ
    ないが、月世界は永遠の輝きを放つ。不老不死のユートピアだったのである。/
    ・・・

がっかり(-ω-、) 谷知子は桓武天皇の鷹狩の目的はパフォーマンスだったとする人目を引くような
愚説妄説を本書で唱えてたし(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2022-02-15 )、
期待した小生が悪かった(-ω-、) 本書は続いて次のように記している(@_@;)

    ・・・/月世界は永遠の命の象徴、神秘の世界であった。また、世界中のどの地から
    見ても月はひとつしかなく、普遍の光を放っている。次の歌などは、天皇に限らないが、
    そうした月の特性を詠んだものであろう。

     岩間より流るる水ははやけれどうつれる月のかげぞのどけき

                    (『後拾遺集』雑一・八四五・後冷泉天皇)

     (岩の間から流れ出る水は速いが、そこに映る月の光はのどやかなこと)

     思ひ出でば同じ空とは月を見よほどは雲居にめぐりあふまで

                    (『新古今集』離別・八七七・後三条院)

     (私のことを思い出したら、同じ空なのだと思って月を見てください。たとえ、
      お互いの距離が遥か遠くても、いつか宮中で再会するまで)

    次に、天皇らしい月の歌を紹介しよう。

     おのづから人の心の隈もあらばさやかに照らせ秋の夜の月

                    (『新後拾遺集』雑下・一三七一・後醍醐天皇)

     (万が一、人の心に曇りがあったなら、はっきりと照らし出せ、秋の夜の月よ)

     わが袖に思ひ知れとや宿るらむ民の藁屋のさゆる夜の月

                    (『後花園院御集』下巻)

     (私の袖に思い知れといって宿っているのだろうか。民が住む粗末な藁葺きの家に
      寒々と冷え込む夜の月よ)

    後花園院の歌と似通う歌を昭和天皇が詠んでいるので、引用しておこう。

     霜ふりて月の光も寒き夜はいぶせき[=粗末な]家にすむ人をおもふ

                    (昭和天皇・昭和二二年)

    いずれも民を治める視点をもった、帝王の歌である。明治天皇の月の歌も紹介しよう。
    やはり、帝王の月の歌である。

     人みなの月まつ夜なり大空の雲ふきはらへ秋のやま風

                    (明治天皇・明治三一年)

後冷泉天皇の歌に詠まれている「そうした月の特性」が全く解らん(@_@;) 「月はひとつ」の方は
後三条院が詠んでるから、「永遠の命の象徴、神秘の世界」を指すのかね(@_@;) でも、この歌は
犬養廉&平野由紀子&いさら会『笠間注釈叢刊19 後拾遺和歌集新釈 下巻』(笠間書院,1997)でも
河本明子が、中山美枝子の〈せばめられた水の流れは早いが、庭の滝へと向かう水であるから、そこ
に映る月はさして揺れもせずおだやかに映っている。「早けれど」と「のどけき」が照応して、一つ
の機知、意外性をあらわしている。〉という評を紹介してるし、「月の特性」というより水の特性と
思うのだが、太陽光だと映らないというのかね(@_@;) 百歩譲って、「月」の「神秘」性としても
「永遠の命の象徴」は流石に読み取れないかと(@_@;) また同歌は『後拾遺和歌集』と『今鏡』に
後冷泉天皇の作として載っているけど、謎があって、同書にも「なお、『栄花物語』(根あはせ)の
内裏での記事(康平三・四年ごろ)に当夜のものと思われる記載がある。しかも、[藤原]祐家の歌
が非常に類似しているが関係は不明。」(@_@;) 山中裕&秋山虔&池田尚隆&福長進(校注・訳)
『新編日本古典文学全集33 栄花物語③』(小学館,1998)386頁に、二位中将(藤原祐家)の「岩間
より流るる水に月影のうつれるさへぞさやけかりける」(同書の訳だと「岩の間から流れ出る水に、
月光の映っているだけでもすがすがしく澄みきった感じがすることよ」)が出てて、同頁の頭注9は
類似歌が後冷泉院御製として『後拾遺和歌集』『今鏡』にあるとした上で「・・・詠者は異なるが、
状況、発想が似ており、同じ時の詠作か。」としており、竹鼻績(全訳注)『今鏡(上)』(講談社
学術文庫,1984)も「この[藤原祐家の]歌と後冷泉帝の歌とは発想が類似しており、日時・状況の
共通する点を考慮すると、同じ時の詠作ではないかと推定される。」と(@_@;) 「同じ時の詠作」
とは科学史における「同時発見」=「複数の科学者が、それぞれ独立に、ほぼ同時に同じような発見
に至る」(成定薫『科学と社会のインターフェイス』[平凡社自然叢書,1994])とはモチ異なり、
川村晃生(校注)『和泉古典叢書5 後拾遺和歌集』(和泉書院,1991)の頭注は「これ[=藤原祐家
の歌]の改作か。」と一歩踏み込んだコメをしている(@_@;) 要するにパクリ・・ヘ(__ヘ)☆\(^^;

・『源氏物語』の「須磨」では光源氏がフツーに月の顔を見てるじゃん〇 o 。.~~━u( ゚̄  ̄=)プハァ

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2022-05-04

・『源氏物語』の「宿木」では匂宮と中の君が二人で月を見るのは良くて一人では忌むことかよ(^_^;)

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2022-05-05

・『竹取物語』の「月の顔見るは、忌むこと」の典拠とされる白居易の漢詩文を読み解いてみた(^_^;)

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2022-05-07
タグ:歴史 和歌
コメント(6) 
共通テーマ:

コメント 6

ナベちはる

ハンディファンを胸の谷間に挿して街を闊歩しているなんて、思わず見てしまいまそうです。
それがお姉さんならなおさら…(笑)
by ナベちはる (2022-08-12 01:36) 

middrinn

お姉さんだったら二度見したり振り返ってしまったかも(^_^;)
by middrinn (2022-08-12 05:35) 

df233285

西暦1947年に昭和天皇は、後花園天皇の和歌の
一部の単語の意味を、妙に変形してないですか? 
「さゆる」は、堀内敬三の「冬の星座」にある
ように、「寒々と冷え込む」ではなくて「月も、冬なので、
(特に太平洋側は日本の場合)空気が澄んでいるので、
ひときわ明るく≪冴えて≫見えている。が、冬ではある
のできびしい季節」の意味ではないかと私は疑います。
実際見てみると判りますが。冬の月明かりには寒々の
イメージ無いです。一部の生物学者による、天文現象の
誤った解説というのも、一部の国文学者の問題のように、
まあ存在はしてますね。対応は同様にめんどくさいです。
by df233285 (2022-08-12 10:47) 

middrinn

「さゆ」は古語辞典にも〈冷え込む〉と〈澄みわたる〉の二つ
の意味が出てますし、後花園院御製は前者の意でしょう(^_^;)
昭和天皇が後花園院御製を踏まえて詠んだかは判りませんけど、
まだ戦禍の痕が残る家に住む民を思ったもので同旨かと(^_^;)
by middrinn (2022-08-12 12:38) 

tai-yama

ペルセウス座流星群も御月様もここ3-4日拝めず・・・・
折角北海道に行ったのに、ツキがないと(笑)。
by tai-yama (2022-08-13 20:24) 

middrinn

月の物が来ない!と北海道から船橋へ女性たちが
大挙来襲する日も遠くはな・・ヘ(__ヘ)☆\(^^;
by middrinn (2022-08-13 20:44) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。