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230516読んだ本

春という季節は東からやって来て西へと去って行くと言っているようなものかとC= (-。- ) フゥー
日本列島の場合には春は西南の方からやって来て東北の方へと進んでいくと思うのだが(@_@;)
雨続きで冬の掛布団を使うほど寒かったのに快晴で25度に達し明日の予報は30度ヒィィィィィ(゚ロ゚;ノ)ノ

【読んだ本】

今栄蔵(校注)『新潮日本古典集成 芭蕉句集』(新潮社,1982)所蔵本

前に指摘した誤訳(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2023-04-19 )とも単なる
重箱の隅的ミス(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2023-05-03 )とも異なり、
小生的に気になる点があったので、本書から通釈(訳)も含めて引く(@_@;)

      和歌

    行く春に 和歌の浦にて 追ひ付きたり

     今まさに海の彼方に遠ざかろうとする春に、和歌の浦の海辺ぎりぎりの所で
     追いついたよ。

前書の「和歌」とは「紀州(和歌山県)和歌の浦に面する村の名。浦は『萬葉集』以来の歌枕。」と
本書の頭注にあるも、「ただし、今の新和歌の浦ではなく、玉津島神社のある片男波[かたおなみ]
の入江付近のことである。」と片桐洋一『歌枕 歌ことば辞典 増訂版』(笠間書院,1999)にあり、
犬養孝『万葉の旅(中)』(社会思想社現代教養文庫,1964)にも「万葉の〝わかの浦〟は和歌山市
南部の、観光地としてきこえた新和歌浦ではなくて、その東南の旧和歌浦である。」と説明があり、
その位置を把握できた(^o^)丿 さて、この句は『笈の小文』の旅での作であって、和歌の浦へは吉野
→高野山→和歌の浦という行程だったので(井本農一『芭蕉入門』[講談社学術文庫,1977]等)、
地図を見れば芭蕉らは東から西へ一直線に旅をして和歌の浦へと至ったわけで、上記の本書の通釈は
春が東の方からやって来て西(西南?)の「海の彼方」へ去って行くという意味になるかと(@_@;)

なお、麻生磯次(訳注)『現代語訳対照 奥の細道 他四編』(旺文社文庫,1970)は同句を「吉野や
高野の山路を歩いて、この和歌の浦まで来て、暮春の情をしみじみと味わった。」と訳すのみだが、
深沢眞二&深沢了子編『芭蕉・蕪村 春夏秋冬を詠む 春夏編』(三弥井古典文庫,2015)を披くと、
次のような解説がなされている(@_@;)

    元禄元年(一六六八)春、芭蕉は弟子の杜国と二人で旅をした。吉野の花を満喫し、
    高野山に登り紀伊の国に抜け、和歌の浦へと歩を進めた。前書の「和歌」は、歌枕の
    「和歌の浦」一帯を指している。和歌の浦には、和歌三神の一つ、玉津島神社がある。
    1の白居易の詩句[「春を留むるに春住[とど]まらず・・・」]に言うように春を
    留めようととしても春は留まらないものであるはずなのに、由緒ある「和歌」の地で
    春に「追付たり」と詠んだ点が俳諧である。この歌枕では、過ぎ行く春を惜しむ和歌
    伝統の情趣が、あらためて身に迫ってくると言うのである。和歌の浦を「春の泊まり」
    「春の湊」と見たのだ。

崇徳院「花は根に 鳥はふるすに 返なり 春のとまりを 知る人ぞなき」(「春が終れば、花は根に、
鳥は古巣に帰ると聞いているが、春の行き着く泊りを知っている人はいないことだ。」と片野達郎&
松野陽一[校注]『新日本古典文学大系10 千載和歌集』[岩波書店,1993]は訳)、寂蓮法師「暮れ
てゆく 春のみなとは 知らねども 霞に落ちつる 宇治の柴舟」(「終りになって去っていく春の行き
着く港は知らないが、今、霞の中に落ちるように下っていく宇治川の柴舟とともに、春が去っていく
感じである。」と峯村文人[校注・訳]『新編日本古典文学全集43 新古今和歌集』[小学館,1995]
は訳)にもあるように、「春の泊まり」「春の湊」は終着点であって、本書の通釈の如き出発点では
ない(@_@;) そもそも、2首とも「春の泊まり」「春の湊」が何処なのかは知らないと詠んでおり、
藤原経家の「いづかたと 春のゆくえは しらねども をしむ心の さきにたつかな」(「去り行く春の
行方はどの方角ともわからないが、春を惜しむ心が先に立って道案内をすることだよ。」と片野達郎
&松野陽一・前掲書は訳)にもあるように、春の行方というのは分からない、とされている(@_@;)
「海の彼方に遠ざかろうとする春」とか〈和歌の浦を「春の泊まり」「春の湊」と見た〉というのは
こういった和歌の伝統を意識した上での「俳諧」なのかね(@_@;) 春が何処から来るかについては
後鳥羽院「ほのぼのと 春こそ空に 来にけらし 天の香具山 霞たなびく」(「ほんのりと春はまず空
にやってきたらしい。天の香具山に霞がたなびいている。」と久保田淳『新古今和歌集全注釈 一』
[角川学芸出版,2011]は訳)の如く「王朝びとの春は空から訪れる」(西村亨『王朝びとの四季』
[講談社学術文庫,1979])とされる(^^) よみ人知らず「春霞 立てるやいづこ み吉野の 吉野の山
に 雪は降りつつ」(「春霞はいったいどこに立っているのだろうか。ここ吉野山ではまだ雪が降り
続いて、一向に春らしくないが。」と小町谷照彦[訳注]『古今和歌集』[ちくま学芸文庫,2010]
は訳)があるように、吉野の山は(天の香具山より高いのに)春の訪れが遅いことも認識していた点
は謎(@_@;) 「天の香具山は、当時の歌人には、かなり高い山のように意識されていたらしい。」
(久保田淳・前掲書)からか、「天の」という冠が付いている特殊な山だからか(@_@;) 春は高地
の「吉野や高野の山路」では去るのも早くて、「和歌の浦」は低地なので残っていたのかな(@_@;)
タグ:和歌 俳諧 紀行
コメント(10) 
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コメント 10

爛漫亭

 なかなか深い読みですね。紀州に住む人間の実感としては、
5℃は低い吉野、高野山から、温暖で明るい和歌の浦にくれば、
行く春が待っててくれた気がするでしょうね。
by 爛漫亭 (2023-05-16 21:25) 

tai-yama

桜の開花を考えると低地より高地の方が後と言う・・・
最近の夏は都市部からやってくると(笑)。
by tai-yama (2023-05-16 22:38) 

ナベちはる

5月中旬とは思えないほどの気温、聞いて思わず頭が混乱しました(^^;A
by ナベちはる (2023-05-17 00:51) 

suzu*

異常気象にしたのは人間だとしても…
ねぇ、なんとかならんのかなぁ
季節ってものを充分に味わいたいものだが…
真っ直ぐな道をひたすら走ってるとさ
汗は出なくても、こぅ意識が遠のく気がしてきてね
だからね、〝引きこもり〟になりがちなのよぉ最近。

by suzu* (2023-05-17 05:04) 

middrinn

となると、冬も吉野や高野山で修行する者が和歌の浦に赴くと別世界と(^_^;)
実は、春は西から東へ進むから、この句は芭蕉が吉野から伊勢へ旅した時の作と
勝手に思い込み、和歌の浦は伊勢の歌枕と今まで勘違いしておりました(^_^;)
爛漫亭様、来年あたりに『笈の小文』を追体験する旅など如何でしょう(^o^)丿
by middrinn (2023-05-17 05:19) 

middrinn

「王朝びとの春は空から訪れる」のに、たしかに、高地=山の桜の開花は遅く、
tai-yama様、そのことを王朝びとが認識していた点もまた謎ですね(@_@;)
都市部でも拙宅のある町は冬と夏が交互に来ては去り来ては去りです(^_^;)
by middrinn (2023-05-17 06:02) 

middrinn

今見たら明日は32度と予報が((;゚Д゚)ヒィィィ!
ナベちはる様、多治見市は7月には40.9度の
タイ記録、更には新記録が出るかも(^_^;)
by middrinn (2023-05-17 07:13) 

middrinn

お花が咲くのも早まりそうですし、見逃さないように、
suzu*様、お外になるべく出るようにしないと(^_^;)
運転はエアコンを付けて車内を涼しくしてから(@_@;)
by middrinn (2023-05-17 08:01) 

df233285

あんまりブリックス諸国へは私が行った経験無いので、
某国首都の場合に、以下特に当てはまるとは単なる私見
ですが。
もし1960年代の高度成長期前のように、梅雨の前まで
春を続けたいのなら。コンクリ減らして植生と水面増やし
冷房止めて、外界が暑くならないようにするしか無いん
じゃないですかね。客観世界は都市型気候なのでは?
何かに憑かれたように、電気代を値上げする昨今の
ご時世なので。
某県給与第1位の自治体の都市環境担当に「モミジアオイ
ただでやろうか」と言ったら、対応嫌がって逃げ回って
いた現状等を問題視する、今の局面は良い機会なのでは?
こちとらにはロクに作付けの知識も無い役所の若僧職員なん
かに、園芸植物の地面への植え替え、やらせる気などは
最初から無かったんだがねぇ。

by df233285 (2023-05-17 09:30) 

middrinn

公共施設の屋上緑化を推進している自治体も
ありますが、微々たる効果なのかな(@_@;)
舗装された道路しか見かけませんし(@_@;)
by middrinn (2023-05-17 13:11) 

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