SSブログ

230922読んだ本

「カントがビールを怖れたのも、飲んだあとで、頭が知的に動かなくなることを認めたからであろう」
と渡部昇一『知的生活の方法』(講談社現代新書,1976)にあるが、20日に貰ったヱビス缶1本を昼食後
に飲み本書をバラバラ披き目が留まった説話を読んで思い付いたことを一気に書き上げてみた(@_@;)

【読んだ本】

浅見和彦(校注・訳)『新編日本古典文学全集51 十訓抄』(小学館,1997)所蔵本

    /源経兼が下野守になって、任国にあったころ、ある者が、手紙を持参し、
    ちょっとしたことを頼んでいったのだが、だいたい具合が悪いなどといって、
    はかばかしい答えをしなかった。そのため、その者は、冷やかな態度で、
    怒りをこめて帰っていった。ところが、二、三町ほど行ったところ、
    あとから人を走らせて、「おーい、おーい」と呼び返すので、「さては
    気の毒に思って、何かくれようというのかもしれない」と思って、立ち戻った
    ところ、経兼が言うには、「あれを御覧ください。有名な室の八嶋とは
    これですよ。都で、みなさんにぜひお話し下さい」と言うのであった。
    その者は、ますます腹を立てて、帰っていったという。/この話もおもしろい
    話である。おなかが痛くなるほどだ。/

『袋草紙』ではなく『十訓抄』から本書の訳を原文ママで書き写してて腹が立つのはさておき、浅見
和彦は「数寄者の感覚は一般人とかけ離れている。それらはある時は尊敬もされ、賛嘆もされるが、
一方、滑稽で、笑いを誘う場合も多い。」と評しているが、片桐洋一『歌枕 歌ことば辞典 増訂版』
(笠間書院,1999)が〈下野国の歌枕。今の栃木県栃木市。この地にある清水の水が蒸発して煙のよ
うに見えるということから「室の八島の煙」という形でよくよまれた。・・・〉と説明する「むろの
やしま【室八島】」が実は気付かれ難い場所であることを示唆してる説話ではないかと愚考(@_@;)

久富哲雄(全訳注)『おくのほそ道』(講談社学術文庫,1980)は「室の八島は、『おくのほそ道』
行脚における最初の歌枕の地である。それにもかかわらず、曽良の語る縁起談を挙げただけで、室の
八島の景観について、何らの記述もしていないのは、その実景が芭蕉の期待に反したからであろうか
。」として、頴原退蔵&尾形仂(訳注)『新版 おくのほそ道 現代語訳/曾良随行日記付き』(角川
ソフィア文庫,2003)も「室の八島は、日光へのコースからいえば三里の回り道になるのだが、芭蕉
がせっかく訪れた室の八島について、直接にはほとんど何もしるしていないのは、その実際の景観が
歌枕に寄せる芭蕉の期待を裏切ったからでもあろう。」としており、『おくのほそ道』は歌枕探訪が
目的なのに歌枕で秀句が詠めなかったという「皮肉」(三木紀人『日本周遊古典の旅』[新潮選書,
1990])に、「もしかして芭蕉はイメージしてたのと違ったから秀句を詠めなかったとか(^_^;)」と
指摘したのは(⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2023-09-13 )は強ち見当外れ
でもなかったようだが、室の八島が分かり難いため印象が弱い景観だったこともあるのかも(@_@;)

なお、杉本苑子『おくのほそ道 人物紀行』(文春新書,2005)は「糸遊に結びつきたるけぶりかな」
をこの地で詠んだとして紹介しているけど、この句について久富哲雄・前掲書は「・・・芭蕉が室の
八島で句作したことが知られるが、本文に入れるほどの佳作ではないと芭蕉が考えたからか、あるい
は本文と句とが調和を欠くので入れなかったものであろう。」としてる〇 o 。.~~━u( ゚̄  ̄=)プハァ
コメント(8) 
共通テーマ:

コメント 8

アニマルボイス

ばたばたしていて、しばらくロムもしていなかったんだけど、やってくるとおもしろいので「クセ」になっちゃうねえ。
カントに関しては大学教養部の指導教官だったH助教授が、何の文脈でだったか忘れたけど、「カントは、黒い靴下を履くと女性の脚は細く見えると書いている。当時のスカートは足首まであったんだから、カントも普通の男だったんだなあ」と言っていました。
「純粋理性批判」のことなどきれいさっばり忘れてしまったけど、こういうことだけはいつまで経っても覚えております。(^^;
by アニマルボイス (2023-09-22 22:23) 

middrinn

それだけカントに対して謹厳実直で難しいことばかり
考えているイメージをお持ちだったからでは(^_^;)
カントは人間の認識というものを理解してもらうため
に卑俗な例を持ち出したのかもしれませんが(^_^;)
ちなみに、プロレスラーが黒タイツを穿いているのは
足を長く見せるためと読んだ記憶があります(^_^;)
by middrinn (2023-09-23 06:18) 

df233285

ヘエー。栃木市のすばる天文同好会には一応入会してまし
て、若いころから数百回栃木市へは行きましたが。そんな
ところが芭蕉に詠まれてたんですねぇ。勉強になりました。
今度「しもつけ風土記の丘資料館」へ行く用事でもあれば、
壬生駅では無くて、野州大塚駅からここを経由して行きます。
by df233285 (2023-09-23 06:46) 

ナベちはる

カントがビールを恐れた理由がどことなく哲学的な言い回し(?)で、「やっぱり哲学者はビールを恐れる理由も普通とは違うなぁ」と感じました(^^;
by ナベちはる (2023-09-23 10:28) 

middrinn

歌枕ですから、和歌によく詠まれてます(^_^;) ただ、宮中の大炊寮の竈の
こととする説もあり(工藤重矩[校注]『詞花和歌集』[岩波文庫,2020])、
長さん様、片桐洋一・前掲書も実はそちらの説の方に傾いております(^_^;)
by middrinn (2023-09-23 13:34) 

middrinn

ナルホド(^_^;) 単に「頭が働かなくなる」の方が、
ナベちはる様、頭にスッと入りますよねぇ(^_^;)
by middrinn (2023-09-23 13:58) 

tai-yama

ビールの飲んで酔っ払うのはなんともカントもし難いと(笑)。
行ったら自分のイメージと違う場所なんて、私の旅の中では多数っ。
by tai-yama (2023-09-23 19:20) 

middrinn

それは情報源に問題があるのでは(^_^;)
by middrinn (2023-09-24 03:31) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。