SSブログ

230623読んだ本【承前】

文豪に「劣等感」があっただと( ̄◇ ̄;) たしかに、その代表作の一つを読むと合点がいく(@_@;)
判る人にしか判らないけどアレも読んだコレも読んだとアピる衒学癖は「劣等感」に由来か(@_@;)
今夜から対オリのホークス戦中継あるも電気代節約するため絶対に絶対に絶対に視ない(´;ω;`)

【読んだ本(承前)】

高島俊男『しくじった皇帝たち』(ちくま文庫,2008)所蔵本

本書の後半に収録(前半は「隋の煬帝」を収録)されている「露伴『運命』と建文出亡伝説」を再読
している(^_^;) なお、以下の引用にあたっては、一部の漢字は字体が異なるし、繰返し符号も同一
のは見付からなかった(^_^;) あと同じ語が漢字だったり平仮名だったりするのは原文ママ(^_^;)

    /『運命』はたいがい史書[『明史紀事本末』]のひきうつしでできているが、一か所、
    まさしく露伴の創作、と言ってよいところがある。と言っても、話をこしらえてあるの
    ではなく、描写をくわえてあるのである。/燕王[=後の明の成祖・永楽帝]が旗あげを
    決意した晩、風が吹いてのきの瓦がおちた。燕王がエンギがわるいと不快な顔をしたら、
    道衍が『吉兆でございます』と言った。これがなんで吉兆か、と燕王が問うと道衍は、
    ・・・と当意即妙の返事をした。──そういう話が史書にあって、露伴は風雨の描写を
    くわえたのである。/その「急に風雨がきてのきの瓦がおちた」というところ、露伴が
    依拠した『明史紀事本末』にはこうある。/〈適暴風雨、簷瓦墮。〉/これだけのこと
    なのだが、このたった七字を露伴はえらくひきのばした。/〈天耶、時耶、燕王の胸中
    颶母[ばいも]まさに動いて黑雲飛ばんと欲し、張玉、朱能等らの猛將梟雄、眼底紫電
    閃いて、雷火發せんとす。燕府を擧つて殺氣陰森たるに際し、天も亦應ぜるか、時抑至
    れるか、颷風暴雨卒然として大に起りぬ。蓬蓬として始まり、號號として怒り、奔騰
    狂轉せる風は、沛然として至り、澎然として瀉ぎ、猛打亂撃するの雨と伴なつて、乾坤
    を震撼し、樹石を動盪しぬ。燕王の宮殿堅牢ならざるにあらざるも、風雨の力大にして、
    高閣の簷瓦吹かれて空くうに飄り、砉然として地に堕ちて粉碎したり。……〉/小生は
    こういうのを「漢文張扇」と称する。けたたましいことばばかりが空転して、内実は
    なんにもない。風が吹いて瓦が落ちたというだけのことである。/まともな文章家
    だったらこういうコケおどしの文章を書くのははずかしい。どこで目のある人が見る
    かもしれないのだから──。実際心ある人なら、この空疎な漢字の羅列のむこうにほの
    見える露伴の劣等感に哀れをもよおしたろう。/ところがこれに感激した人がけっこう
    あるらしい。/・・・

「感激した人」として芥川龍之介を挙げ、佐々木茂索の前で上記件を「名文だ」と朗読した話を紹介
する一方、後に芥川龍之介が幸田露伴は尾崎紅葉と並ぶ明治の大家とされるが紅葉の才には及ばぬし
文章も遥かに下だと酷評した文章を引いて、後者を高島俊男は「信じてやりたい」と記してる(^_^;)
だけど、古典の翻案に関しては、短篇「六の宮の姫君」を読むと、芥川龍之介は幸田露伴に劣るとも
勝らないし、堀辰雄や吉田精一は『運命』を絶讃した小泉信三や河盛好蔵と同じ立ち位置かと(^_^;)

    ・・・/小泉も河盛も昭和期の人だが、この世代の知識人はもうダメなのである。
    ダメだと自覚すればだまっていればよいのだが、わかったふうなことを言って
    馬脚をあらわす。/・・・

ただ、「六の宮の姫君」より出来がいい「曲殿姫君事 第二十八」が入る『古本説話集』は1942年に
発見、1955年に岩波文庫等で刊行ゆえ、芥川龍之介はモチ見てないし、堀辰雄も見てないかも(^_^;)

さて、高島俊男のような「目のある人」「心ある人」とは違って、小生は(モチ「感激」とかしない
けど)「空疎な漢字の羅列」なのかどうかは判らなかったのだが、「露伴の劣等感」というのがチト
気になった(@_@;) 高島俊男は本書でも幸田露伴を「当代随一の物知りであった」、「露伴は人間
ばなれした博学博識の人・・・」、「露伴の史談の魅力は、まるで魔法のようにつぎつぎと関聯史料
をとり出して見せるところにある」、「人のめったに知らぬものを持ち出すのも露伴の特技である」
などと高評しており、そんな幸田露伴に「劣等感」があったなんて驚き(@_@;) と初めて読んだ時
は思ったんだけど、幸田露伴の代表作の一つを読み始めた今は腑に落ちる(←誤記ではない)(^_^;)

    ・・・/露伴は、江戸時代の本なら何でもよんでいて何でも知っているみたいだが、
    [室鳩巣の]『駿台雑話』はもれていたらしい。知っていたら、自分より二百年も
    前に日本人に「建文遜国」の話を紹介した人があることを、書かないはずはない
    だろうからね。/

たしかに(^_^;) ただ、曲亭馬琴の衒学癖は自著の叙述の種本や典拠を自ら進んで明らかにしちゃう
ものなので稚気を感じるが、幸田露伴の衒学ぶりは自分が如何に多くの本を読んでいるかをアピール
も判る人にしか判らないような仕掛けを施してて、大人の屈折したものを感じる(^_^;) 拙ブログも
衒学的だけどね(^_^;) てゆーか、そもそも読書ブログというものには、そーゆー一面がある(^_^;)

・『古本説話集』のを読むと『今昔物語集』のはイマイチだし、ましてや芥川のなんか興醒め(´ヘ`;)

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2019-01-20

[追記230624]

前に読んで付箋も貼ってあるのに忘れてたけど、高島俊男『本が好き、悪口言うのはもっと好き』
(文春文庫,1998)所収の「回や其の楽を改めず」によると、学歴コンプレックスなのかな(^_^;)
タグ:評論 歴史
コメント(6) 
共通テーマ:

コメント 6

df233285

幸田露伴は劣等感を感じるタイプでは無かったと私は思う。
西洋一辺倒から、国粋に変わるの時代の流れの中で、過去のアジア
・中国・江戸日本の卑下を反省して幸田露伴は、しばしば言い回し
を工夫して、そのような印象を与える事も有ったのではないか。
例えて言うなら、中華人民共和国の経済伸長で、中国国内での
論壇を比較的低く見ていた、前世紀20世紀後半の日本の空気を、
21世紀前半の日本人論壇が、しばしば別れがちなのとベクトルの
向きが似ているという感じなのかもしれないと私は疑う。
by df233285 (2023-06-24 06:40) 

ナベちはる

絶対に観ないと思っていても、やはり結果は気になって…無事に我慢できますように(+o+)
by ナベちはる (2023-06-24 10:49) 

middrinn

追記で挙げた論稿に京都帝国大学が帝大出身者ではない露伴を招いた
話も詳論されてて、〈・・・/明治四十四年に念願の文学博士を授与
された。以後新聞雑誌に寄稿する際「文学博士幸田露伴」と署するよ
うになる。露伴ほどの偉い作家なら、何もそんな肩書などつけなくと
も……、という気がするが、学歴のない露伴にとっては「博士」の味
は格別だったのだろう。/・・・〉とし、「劣等感」ありそう(^_^;)
本書に〈・・・/露伴が『幽情記』や『運命』を書いた大正なかばは、
漢文の復興期である。自然に復興したのではなく、国家が上から復興
を推進した。/・・・/日露戦争の勝利後、日本の社会は大きくかわ
った。文明開化は国民を一つにたばねるスローガンとしての有効性を
うしなった。・・・もう一度国民の精神を一つにたばねるものとして
提唱されたのが、教育勅語、忠孝道徳であり、それをささえる支柱と
して「五十年前のゴミためからかつぎ出された赤錆刀」(末弘厳太郎
の言)が、孔孟の道、漢文であった。・・・/・・・露伴にとっても
漢文の春の再来はうれしくないことではなかったろう。/〉とあり、
長さん様、この『運命』には実は国家の基本方針からの影響も(^_^;)
谷崎潤一郎、斎藤茂吉、小泉信三が『運命』の文章に感激したのは、
明治の近代教育をうけた世代ゆえ、漢文が解らなかったからと(^_^;)
by middrinn (2023-06-24 14:58) 

middrinn

全くTVを点けませんでしたヤッタネ!!(v゚ー゚)ハ(゚▽゚v)ィェーィ♪
我慢した自分のことを自分で褒めてあげたいです(^o^)丿
たしかに気になったので途中経過はネットで確認(^_^;)
ナベちはる様、視なかったから、負けたのかも(´ヘ`;)
by middrinn (2023-06-24 15:24) 

tai-yama

昔のようにオリックスも弱ければ電気代も節約できたのに・・・
瓦の落ちる様の情景をこれだけ大げさに表現すれば確かに
吉兆と思えるかも(笑)。
by tai-yama (2023-06-24 18:49) 

middrinn

数年前のように弱かったら応援するため視聴しちゃうでしょ(^_^;)
また弱かった頃はメディアが取り上げないので視るしかない(^_^;)
小生の印象では、この叙述はむしろ不吉さを強調してるかと(^_^;)
で、「吉兆」とする道衍の「当意即妙の返事」を際立たせる(^_^;)
by middrinn (2023-06-25 04:12) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。