ちなみに、「物言わぬ花」とは草木の花の総称だが、「物言う花」とは美人のこと_φ( ̄^ ̄ )メモメモ

【読んだ本】

井上靖『忘れ得ぬ芸術家たち』(新潮社,1983)

本書所収の「河井寛次郎のこと」(初出は1980年9月の由)の次の件がいい(13~14頁)(〃'∇'〃)

    ・・・もう十何年か前のことであるが、私は氏をお訪ねした時、工房の隅に半ば埃りを
    かむって置かれてあった壺の前で足を留めた。そして氏に、これを譲って貰えないかと
    言った。すると、氏は、
     ──これはちょっとお譲りしかねる。他のものではいけませんか。
     と言われた。私はその時、別に氏の作品を欲しいと思って訪ねていたのではなかった。
    たまたま眼についた半ば埃りを被っていた壺が、その時特殊なものに感じられたので、
    それを所望したのであった。
     そのことを、私は氏に伝え、それからのぼりがまの方に行って、再び工房に戻った。
    そして先刻の壺の前まで来た時、氏は、
     ──井上さんのところへゆくか。
     恰も人に言葉をかけているかのように、その壺の方に言った。
     その日、氏のお宅を辞して、待たせておいたくるまに乗ると、先刻の壺が紙に
    包まれて、くるまの坐席の上に載せられてあった。私がその壺を所望した時、
    どうして氏がそれを断わったか、いつかその時のことをお訊ねしようと思っていて、
    そのまま過ぎてしまい、ついにそのことをお訊ねする機会を失ってしまった。
     いま考えてみると、それは氏にとって気に入らないものであったか、あるいは
    他の人に渡す約束のあったものであったかも知れない。まあ、前者ではなかったか
    と思う。私が所望した時、氏は、これはいけませんよ、作者の私も気に入っていない、
    おやめなさい、そんな気持から、私の申し出でをしりぞけたのではなかったか。
    しかし、所望者が私だったので、あとで考え直し、気に入らない作品ではあるが、
    他ならぬ井上さんのところだから、お前行ってみるか、こういうその壺への話しかけ
    になったのではなかったかと思う。
     ・・・

芸術新潮1991年4月号の追悼特集「井上靖 美への眼差し」の「仰げば懐かし 有縁の人々」の中の
「会ってうれしい河井寛次郎」に上記件は「・・・載せられてあった。」までが引用されているが、
二つある「埃り」が「埃」となっている(@_@;) 「申し出で」もそうだけど、井上靖の独特の表記
なのか、あるいは本書(初版)の単なる誤植の類いなのか、一応指摘(@_@;) それはさておいて、
「井上さんのところへゆくか」と「壺」に向かって話しかけた河井寛次郎、素敵だよねぇ(〃'∇'〃)
このエピソード、モチ記憶に無いが、戸板康二「ちょっといい話」シリーズに載ってたりして(^_^;)

・戸板康二の「ちょっといい話」シリーズ4冊から〈真・ちょっといい話〉を選りすぐってみた(^_^;)

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2020-12-27

・戸板康二『あの人この人 昭和人物誌』(文春文庫,1996)の人物一覧〇 o 。.~~━u( ゚̄  ̄=)プハァ

 ⇒ https://yomubeshi-yomubeshi.blog.ss-blog.jp/2021-09-11